半年間、食事を拒否し続けていた85歳の女性がいました。
何を勧めても首を横に振る。職員たちはあらゆる工夫を試みましたが、状況は変わりません。ところが、月に一度の介護美容の日だけは違いました。髪を整え、薄く化粧を施してもらった後、彼女は鏡の中の自分を見つめ、こうつぶやいたそうです。
「あら、私きれいね」
その日の夕食は、完食でした。
介護美容とは、単なる「おしゃれ」ではありません。高齢者の尊厳を守り、生きる意欲を引き出す、新しいケアの形です。市場規模は約737億円に達し、導入施設数は2021年比で13倍に拡大。科学的な研究でも、その効果が次々と証明されています。
この記事では、介護美容の定義から、最新の市場データ、科学的エビデンス、現場で起きている変化まで、網羅的にお伝えします。
介護美容とは|定義と具体的なサービス内容
介護美容とは、加齢や病気、障がいなどにより自力での美容行為が困難になった方に対して、専門的な知識と技術を持った美容師や介護士が提供する美容サービスの総称です。
一般的な美容サービスとの違いは、「ケア」の視点が入っていることにあります。高齢者の肌は乾燥しやすく、薄くなっています。関節の可動域にも制限がある。認知症の方とのコミュニケーションには、特別な配慮が必要です。介護美容では、こうした高齢者特有の身体的・精神的特徴を理解した上で、一人ひとりに合わせた対応を行います。
主なサービス内容
介護美容で提供されるサービスは多岐にわたります。
ヘアケアでは、カット、カラー、パーマなどを提供します。座ったままでも安全に施術できる工夫や、肌に優しいカラー剤の選定など、高齢者の状態に配慮した対応が求められます。
メイクアップでは、低刺激性の化粧品を使い、顔色を明るく見せるベースメイクや、表情を豊かにするポイントメイクを施します。鏡に映る自分の顔を見ることで、自己認識を促す効果も期待されています。
ネイルケア・ハンドケアでは、爪の形を整え、甘皮を処理し、ハンドマッサージを行います。高齢者の爪は乾燥しやすく、厚くなったり割れやすくなったりするため、専門的なケアが有効です。
フットケアでは、足の爪のケアや角質除去を行います。歩行の安定や衛生状態の維持に貢献するサービスです。
そのほか、香りの力で心身をリラックスさせるアロマセラピーや、男性向けの顔そりなども、介護美容の一部として提供されています。
介護美容の市場規模と成長データ【2026年最新】
介護美容の市場は、急速に拡大しています。数字で確認してみましょう。
市場規模は約737億円
note記事の分析によると、介護美容の市場規模は約737.5億円と推計されています。高齢者人口の増加に伴い、この数字は今後も拡大が見込まれます。
導入施設数は2021年比で13倍
PR TIMESで発表されたミライプロジェクトのデータによると、介護美容サービスの導入施設数は2021年比で13倍に拡大しました。わずか数年でこれだけの成長を見せている分野は、介護業界の中でも珍しいと言えるでしょう。
訪問理美容の利用率は28.0%
リクルートが実施した「訪問理美容に関する調査2023」によると、訪問理美容の利用率は28.0%で、3年連続で上昇傾向にあります。かつては「特別なサービス」だった訪問美容が、徐々に「当たり前の選択肢」になりつつあることを示すデータです。
利用者家族の47.1%が効果を実感
同じくリクルートの調査では、利用者の家族の47.1%が「改善を実感した」と回答しています。約半数の家族が、何らかのポジティブな変化を感じているということです。
これらの数字が示しているのは、介護美容が「一部の施設の取り組み」から「業界全体のトレンド」へと変化しつつあるという事実です。
介護美容の効果|科学的エビデンスで証明されていること

「利用者が笑顔になった」「食欲が戻った」といった声は、現場からよく聞かれます。しかし、それは単なる感覚的な話なのでしょうか。
答えはノーです。介護美容の効果は、科学的な研究によっても裏付けられています。
見た目年齢が1.9歳減少
SOMPOスマイルクラブが実施した研究では、AIカメラを使った解析が行われました。介護美容の施術前後で、利用者の「見た目年齢」が平均1.9歳減少したという結果が出ています。
さらに、表情分析では「喜び」のスコアが向上したことも確認されました。外見の変化が、内面の変化にもつながっていることを示すデータです。
継続的な化粧行為がADLを向上させる
資生堂の研究では、継続的な化粧行為がADL(日常生活動作)の向上につながることが示されています。
化粧をするという行為には、手先を動かす、鏡を見る、自分の顔に意識を向けるという一連の動作が含まれています。これが脳の活性化や身体機能の維持に寄与すると考えられています。
顔マッサージが食欲を増進させる
化粧療法の研究では、顔のマッサージが唾液腺を刺激し、唾液の分泌を促進することが報告されています。唾液の分泌は、食欲の増進や口腔機能の維持につながります。
冒頭で紹介した85歳女性の食欲回復も、こうしたメカニズムで説明できるかもしれません。介護美容は、精神面だけでなく、身体機能にも直接的な影響を与える可能性があるのです。
介護美容の現場事例|利用者の笑顔が生まれる瞬間

データだけでは伝わらないものがあります。実際の介護現場で、介護美容によってどのような変化が起きているのか。具体的な事例を見ていきましょう。
事例1:半年ぶりに夕食を完食した85歳女性
冒頭でも触れた事例を、もう少し詳しく紹介します。
この女性は、半年もの間、食事をほとんど拒否していました。職員たちは、好物を用意したり、盛り付けを工夫したり、あらゆる方法を試みましたが、状況は改善しませんでした。
転機となったのは、月に一度の介護美容の日。髪を整え、薄く化粧を施してもらった後、彼女は鏡を見て「あら、私きれいね」とつぶやきました。
その日の夕食は、久しぶりに完食。以来、介護美容の日は彼女にとって特別な日になりました。美容が身体機能に直接影響を与えた事例として、現場で語り継がれています。
事例2:稼働率が80%から90%に改善した施設
ある介護施設では、介護美容サービスの導入後、施設の稼働率が改善しました。
導入前は80%だった稼働率が、半年後には90%に上昇。直接的な因果関係を証明することは難しいですが、施設の担当者はこう話しています。
「利用者様の表情が明るくなり、それを見た家族が安心感を持ってくれるようになりました。見学に来た方が『ここなら安心して預けられる』と言ってくださることが増えています」
介護美容は、利用者のQOL向上だけでなく、施設の経営面にもプラスの影響を与える可能性を示す事例です。
事例3:無口だった利用者がおしゃべりに
普段は無口で、他の利用者との交流をほとんど持たなかった方が、介護美容の施術後に変化を見せた事例もあります。
髪を整えてもらった後、他の利用者から「素敵ね」と声をかけられました。それがきっかけで、少しずつ会話が増えていったそうです。
やがて、利用者同士が互いの髪型やネイルを褒め合う場面も見られるようになりました。施設のスタッフは、施術後の写真を家族に送るようにしています。それがきっかけで、面会に来る家族が増えたという効果もありました。
孤立防止、コミュニケーション活性化、家族との関係改善。一つの介護美容が、複数の波及効果を生んだ事例です。
事例4:稼働率90%を維持する美容特化型デイサービス
ふるさと株式会社が運営するデイサービスでは、介護美容に特化したプログラムを提供しています。その稼働率は90%という高い数字を維持しています。
従来のデイサービスとは異なるアプローチが、利用者や家族から支持されている証拠でしょう。介護美容を「オプション」ではなく「中心」に据えたサービス設計が、差別化につながっています。
介護美容を導入する際の注意点
介護美容には多くのメリットがありますが、導入する際にはいくつかの注意点があります。
安全面と感染症対策
高齢者の肌はデリケートです。使用する化粧品や薬剤は、刺激の少ないものを選び、事前にパッチテストを行う必要があります。
使用する器具の消毒・滅菌は徹底しなければなりません。施術者は手指消毒を励行し、必要に応じて使い捨ての手袋やマスクを着用します。転倒防止のため、施術スペースは段差がなく、滑りにくい環境を整えることも重要です。
プライバシーへの配慮
美容サービスは、個人の身体に触れるデリケートな行為です。施術は可能な限り、他者の視線が気にならない空間で行います。会話の内容についても守秘義務を徹底し、個人情報や健康状態に関する話題が外部に漏れないよう注意が必要です。
専門知識の必要性
介護美容に携わるスタッフには、美容技術だけでなく、高齢者特有の身体的・精神的特徴を理解する専門知識が求められます。
認知症の方へのケアでは、声かけの仕方や触れ方など、安心感を与えるコミュニケーションスキルが特に重要になります。緊急時の対応方法についても、事前に研修を受けておく必要があるでしょう。
費用の問題
介護美容の導入には、人件費、材料費、設備費などのコストがかかります。費用負担の仕組みを事前に検討し、持続可能な形でサービスを提供する体制を整えることが大切です。
自治体によっては、介護美容に関する補助金や助成金制度が利用できる場合もあります。導入を検討する際には、情報収集を行うことをおすすめします。
介護美容の将来性|2026年以降の展望
介護美容の市場は、今後も成長が続くと見られています。
2026年4月:日本介護美容協会が設立予定
2026年4月には、日本介護美容協会の設立が予定されています。業界の標準化が進むことで、サービスの質の担保や、人材育成の体制整備が加速すると期待されています。
これまで「各事業者がそれぞれのやり方で提供していた」介護美容が、業界全体として統一された基準を持つようになる。2026年は、介護美容にとって一つの転換点になるかもしれません。
高齢者人口は2042年まで増加
高齢者人口は、2042年まで増加が続くと予測されています。介護美容へのニーズは、当面の間、拡大し続けるでしょう。
かつては「特別なサービス」「贅沢なもの」と捉えられていた介護美容が、「介護の標準」になる日も、そう遠くないのかもしれません。
利用者の笑顔を支えるという仕事

ここまで、介護美容について詳しく見てきました。
市場規模737億円。導入施設数13倍。見た目年齢1.9歳減少。効果実感47.1%。これらの数字は、介護美容の広がりと効果を示しています。
しかし、数字だけでは伝わらないものがあります。
鏡を見て「あら、私きれいね」とつぶやいた85歳女性の表情。髪型を褒められて、少しずつ会話が増えていった利用者の変化。施術後の写真を見て、面会に来るようになった家族の姿。
介護美容の本質は、利用者の笑顔を引き出すことにあります。
「美しくありたい」という気持ちは、年齢や身体の状態に関係なく、誰もが持っている当たり前の感情です。その感情を大切にし、支えることが、介護や福祉に携わる仕事の意味ではないでしょうか。
「当たり前の権利」を支える仕事
介護美容が支える「美しくありたい」という気持ち。そして、「楽しみたい」「外出したい」「社会とつながりたい」という気持ち。これらはすべて、当たり前の権利です。
株式会社朝焼けでは、障害を持つ方の移動支援(ガイドヘルパー)を通じて、利用者様の「当たり前の権利」を支えています。
動物園や水族館、映画館への外出支援。カフェで好きな飲み物を選ぶ時間。美容院に行きたいという希望があれば、その外出もサポートします。
利用者様が余暇を楽しむ姿は、周囲の人たちの意識を少しずつ変えていきます。「障害があっても、同じように楽しめるんだな」という気づきが、社会全体に広がっていく。朝焼けでは、それを「社会と障害者の架け橋になる」と表現しています。
利用者の笑顔に立ち会える仕事
介護美容であれ、移動支援であれ、本質は同じです。利用者の笑顔を引き出し、その人らしい生活を支えること。
朝焼けの仕事は、利用者様と一緒に外出し、一緒に楽しむ仕事です。身体介護が中心ではなく、「一緒に楽しむ」ことが仕事の中心になります。
月のサービス提供時間は100〜110時間。業界平均の140〜160時間と比べて、約30時間以上少ない設定です。無理なく長く続けられる働き方を大切にしています。
資格取得費用は会社が全額負担。未経験からでも始められます。
利用者様の笑顔に立ち会える仕事。その笑顔が、社会を少しずつ変えていく仕事。興味がある方は、ぜひ一度、採用情報をご覧ください。
参考資料
- PR TIMES「ミライプロジェクト、導入施設数13倍に拡大」(2026年1月発表)
- リクルート「訪問理美容に関する調査2023」(2024年1月発表)
- 資生堂「化粧療法とADL向上に関する研究」
- SOMPOスマイルクラブ「介護美容の効果検証研究」
- note「介護美容市場分析」






